多摩連帯ユニオン聖パウロ病院分会は、永留文子さんの未払い賃金の支払いを病院側に求める労働審判を東京地裁立川支部に申し立てました。
最初に前置きしておきますが、この労働審判は、永留さん個人の未払い賃金を認めさせるために始めたものではありません。病院側は団体交渉の場でも、労働委員会の場でも、未払い賃金の存在も、支払い義務が病院側にあることも認めていません。それを病院側に認めさせるために始めたものです。
さらに、分会としては、そのことを通して、未払い賃金が存在したことに対する病院側の謝罪と、今後は労働基準法にのっとった労働時間の管理と賃金の支払いを行うと制約することを病院側に求めます。
申立の内容は、以下の通りです。(「労働審判申立書」〔以下・申立書〕より)なお、以下の引用文で、「申立人」とは、永留さんのことです。
第1 申立ての趣旨
1 相手方は、申立人に対し、金755,055円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 申立費用は相手方の負担とする。
との労働審判を求める。
「金755,055円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員」の理由として、「申立書」に次のように上げました。
申立人の就業した2011年3月2日から2019年11月2日までの間、毎朝午前85時4分から午前9時まで(但し2011年3月2日~同年9月30日までは8時30分から午前9時まで)「申し送り」の15分間は無賃金で全員参加が義務づけられていた。
しかし、時間外賃金は一度も支払われてはいない。
時給は1260円であるところ、申立人が勤務したのは、
・2011年3月2日~同年9月30日(週休1.5日 土曜半休)
勤務日数 184日(a) 残業時間 30分
・2011年11月1日~2015年12月31日
勤務日数 1305日(b) 残業時間 15分
・2016年1月1日~2019年11月4日
勤務日数
724日(c)
残業時間 15分
(a×630円)+((b+c)×315円)=755,055円
日勤の始業時間が9時からであるにもかかわらず、聖パウロ病院では、8時45分から申し送りが行われていた。それが常態化していたことは、聖パウロ病院の労働者だったらだれでも知っていることです。
ところが、病院側が8月23日に立川支部に提出した「答弁書」では、始業時間前の申し送りが全くなかったようなことを述べています。
申立人は、令和元年(2019年)11月以前、夜勤勤務者から日勤勤務者への「申し送り」が午前8時45分から行われていたと主張するものであるが、そのような事実はない。(中略)
仮に、日勤勤務者が早めに出勤し、午前9時以前に「申し送り」が行われることがあったとしても、相手方(病院側)は、午前9時から「申し送り」を行うよう指示しており、(中略)。したがって、始業時刻の15分前から「申し送り」を開始すべき必要性もなく、そのような実態があったとは認められない。
聖パウロ病院の皆さん。このようなことを病院側は言っています。しかし、「実態」は、どうでしょうか。
永留さんが、他の病棟から5病棟にうつったときに、「ここでは8時半より前に来るのが慣行だ」と同僚に言われました。永留さんが「8時半には来れない」とある上司に言ったら、「いいわよ。うちは申し送りは、8時45分からだから」と言ったということです。このことは永留さんも団交の場で証言し、同席した病院側も否定しませんでした
そのほか、また八王子労働基準監督署に対しても、病院側は「始業時間前の申し送りが行われていた」ことを認める発言をしているのです。聖パウロ病院は、組合や労基署にウソをついたのですか?
例えば、第1回団交で花岡事務部長のことばとして
「
8時45分ていうのをみんながそろった顔を見てちょっと始めてしまったっていう」と言っています。これは「申し送り」のことを言っています。
「9時前から申し送りは行われていたと。自然発生的にそういう状況が生じていたと。いうことはあったわけですけれど」
「8時45分くらいから申し送りが行われていたということは別に争っていないんですよ。それ評価として、まあ、半ば慣行的に行われていたという指摘ももちろんありうると思います」
これは第2回団交の鈴木里士・病院側代理人弁護士の発言です。明確に「9時前に申し送りが行われていた」と言い切っているのです。
「前提の話として、事実については、自然発生的に、具体的な指揮命令で行っているわけではないなかで、そう言う事実としてそう言う慣行的なケースともうしますか、そう言うような状況があったということは、これは、これに関して、別に争ってはおりません」
これも鈴木弁護士の発言。今度の「答弁書」に書かれていることが本当だとすると、病院側は団交の場では組合に対してウソをついたことになります。
また、病院側は、労基署に対してはどういう説明をしたのか。八王子労基署の監督官は花岡事務部長がこう言っていたと、永留さんに言っていました。
「花岡事務部長さんは、あのー、(始業時間前の申し送りは)自然発生的にやってたっ
て、ということを言われた(言った)と、労基署の方は言われました」(第5回団交)
病院側は、「答弁書」では、始業時間前の申し送りを行っていた実態はなかったと言っていますが、花岡事務部長自身が労基署に対して「やっていた」と認めているのです。
どちらが本当なのでしょうか?裁判所に対しては本当のことを言い、労基署に対してはウソをついたというのでしょうか。
そんなことはないでしょう。それというのも、始業時間前に申し送りが行われていたのは、聖パウロ病院に過去勤めていた労働者なら誰もが認める事実であり、病院側もそれを否定することができなかった。だから病院側は、「自然発生的」という言葉を使って、団交の場や労基署に対して説明していたのです。
「答弁書」で病院側が書いた嘘は、絶対に許すことはできません。裁判所はごまかせても私たち労働者をごまかすことはできません。
さらに、前述の鈴木弁護士の発言の中に、「具体的に指揮命令下で行っているわけではない中で」とあります。そんなことはない。「具体的な指揮命令」がないとすれば、どうやって「申し送り」の時刻に看護師が集まることができるのか?また仮になかったとしても、実労働に対してちゃんと賃金を払え、というのが組合と永留さんの主張です。当たり前の話ではないですか。
最後に、永留さんは、「自分だけがお金が欲しくて始めたものではない」と言っています。未払い残業が横行し、エイドさんを含めた職場環境を変えたいと思って始めた闘いです。病院経営は、始業時間前に申し送りが行われていたことを認め、職員に対して謝罪するべきです。そして今後は、労働基準法にのっとった労働時間の管理および賃金の支払いを行うことを求めます。